台湾は、来月10月10日は「国慶節」です。この日は中華民国の建国記念日で、総統府前で祝賀セレモニーが行われます。このセレモニーでは様々な演武やパレードが登場し、毎年注目を集めているのですが、今年(2022年)の国慶節祝賀セレモニーの演出に今回初めて、台湾の民俗芸能の隊列「武陣」が登場します。
この「武陣」とは、台湾の伝統的な廟のお祭りにおいて、欠かすことのできない民族曲芸の一つ「陣頭」の一種です。
まずこの「陣頭」からご紹介すると…
昔の台湾では一つの集落が一つの生活圏とされていて、集落に住む村人たちは、自分たちでお金を出し合って、自主的な演武集団を編成しました。その集団の演武や演芸の項目のことを「陣頭」と言います。
「陣頭」には様々な意義があって…
●身体を鍛えるため
「陣頭」は一種の体育活動と考えていて、健康的な身体と体力があってこそ素晴らしい演武ができるとされています。また、「陣頭」は、身体を鍛えるだけでなく、武道の精神も養うことができるとしています。
●娯楽のため
伝統社会では、人々は仕事に忙しく、休みは少なかったので、神様を迎えるときのリハーサルや演武を行っているときだけ神様と人が幸せを分かち合い、みんなは心身を整えることができたそうです。
●信仰として
「陣頭」は、悪霊を追い払い、民衆を護ると考えられていることから、演武が素晴らしいほど、人々は崇拝し、信仰があつくなります。
●文化として
その神様を敬い、祀り、にぎやかに行われることから、長きにわたり受け継がれてきて、今では伝統が一つの民族文化となりました。
そんな「陣頭」は、大きく分けて2種類に分類されます。
一つは「文陣」、そしてもう一つは「武陣」です。
「文陣」は、農村の人々や民間の芸術家が創作し伝わった小規模な歌や踊り、オペラのことで、ストーリーやセリフがあって、娯楽性が強い演芸です。
一方の「武陣」は、伝統的な農業社会において、村人が、外敵や盗賊から村を守るため、日常的に武術を練習して身体を鍛えるために自主的に編成したのがはじまりで、武術や技の演武が中心となり多くは演武のみで歌はない場合がほとんどです。
そして、宗教的要素が強く、廟のお祭りの際には、悪霊を追い払い、民衆を護る役割を担ってきました。
なお、陣頭の演者は、出陣前には身を清め、精進料理を食べること、そして化粧を施した後は、神様に求められる威厳と荘厳を保つために軽はずみな行動をしてはならないなど厳しい戒律があります。
ただ、時代の流れに伴って「陣頭」も少しずつ変化をしていて、メインは宗教的、社会的なものではありますが、次第に願いことを叶えるなどの実用的な性格を帯びてきていますし、サングラスやサイリウムをアイテムに持ち、テクノミュージックに乗って踊る「電音三太子(でんおん・さんたいず)」のような、新しいスタイルのパフォーマンスも登場しています。
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そんな「陣頭」の一種、「武陣」が今年、国慶節の祝賀セレモニーに初めて登場します。
今回、出演の招待を受けたのは、国定民族文化である「台湾第一香(台湾最初の宗教行事)」と呼ばれる「西港香科武陣」。
台南市七股区の「樹子脚寶安宮代天府の白鶴陣」、西港区の「烏竹林廣慈宮の金獅陣」、安南区の「溪南寮興安宮の金獅陣」の、総勢200人を超えるメンバーによる連合団です。
この3つの伝統武陣が初めて国慶節のために共演します。
先日、国慶節準備委員会の陳宗彥・秘書長が台南に練習の視察に訪れた際、武陣のメンバーは、それぞれに民間防護用の武器、拳や蹴りを使って技を披露。圧巻の光景を見せていました。
陳宗彥・秘書長は、これまでみんな、国慶節セレモニーのパレードといえば、国軍の陸・海・空三軍の鼓笛隊や憲兵のバイク隊によるパレード、あるいは高校のマーチングチームによる演出のイメージかと思うが、今年は初めて民間の陣頭を国慶節セレモニーに招いた。民俗的な文化の伝統と、国を守るという精神の両方を国民、そして世界へと示す。民間防衛という概念は過去から現在まで常に存在し、自身の土地を守ろうとする決意を表している。そして、この「土地を守る」という概念は、今年の国慶節のメインテーマである「国土と国家を守る、あなたも私も(守土衛國,你我同行)」と呼応し、最も重要な意義である。国慶節当日、皆さん、この台南の3つの陣頭により多くの拍手と声援を送り、同時に国民に更に大きな自信を与えて欲しいと語っています。
毎年、国慶節のセレモニーでは様々なパレードや演舞が披露されているので、武陣が初めての登場というのはちょっと驚きましたが、今回、台湾の伝統的であり、かつ “自身の集落を守るため”という意義から誕生した武陣が国慶節セレモニーへの登場するということには、強いメッセージが込められているようです。