文化の台湾 - 2021-02-19_アカデミー賞国際長編映画賞のショートリストに選出!映画「陽光普照(A Sun/ひとつの太陽)」

  • 19 February, 2021
2019年の「金馬奨」で11部門にノミネートされ、最優秀長編作品賞など5つの賞と観客賞に選ばれるなど高い評価を得た台湾映画「陽光普照(A Sun/邦題:ひとつの太陽)」が第93回アカデミー賞の国際長編映画賞のショートリストに選出された。ショートリスト入りは2012年の魏德聖監督作品「セデック・バレ」以来となる。(写真:CNA)

旧正月の連休に入った初日の2月10日、台湾映画界にうれしいニュースが入ってきました。第93回 アカデミー賞の国際長編映画賞のショートリストに台湾の映画「陽光普照(A Sun/邦題:ひとつの太陽)」が選出されました。

アカデミー賞と言えば“世界最高峰の映画の祭典”。その中で、英語以外の言語の映画を対象とした「外国語映画賞」があり、2019年からはその名称を「国際長編映画賞」に変更されています。

その「国際長編映画賞」のノミネート前の最終候補である“ショートリスト”15作品の一つに今回、台湾から出品された映画「ひとつの太陽」が選出されたのです。

アカデミー賞において、台湾映画はこれまでに1993年に「ウェディング・バンケット」、1994年に「恋人たちの食卓」、2000年に「グリーン・デスティニー」と、アン・リー監督の作品が3度ノミネートされたことがあり、「グリーン・デスティニー」は受賞を果たしました。

また、ショートリストに選ばれるのは2012年のウェイ・ダーション監督の「セデック・バレ」以来となります。「セデック・バレ」は最終的にはノミネートに至りませんでしたが、今、この「ひとつの太陽」が、アン・リー監督に続くオスカー像に最も近い台湾の映画となっています。

この「ひとつの太陽」は、2019年の台湾版アカデミー賞「金馬奨(きんばしょう/ゴールデンホースアワード)」で11部門にノミネートされ、うち最優秀長編作品賞や最優秀監督賞など5つの賞と、観客賞に選ばれるなど、高い評価を得た作品です。

どのような映画かというと、どこにでもある平凡な家庭が、次男の逮捕をきっかけにバランスを失ってしまう家族の崩壊と再生を描いた物語─。

自動車教習所の教官であるアーウェンは、日ごろから「今を生きろ。我が道を行け」が口癖。彼自身はその言葉通りに生きてはいないものの、息子たちにはそういう言葉を投げかけていました。

ある大雨の夜、2人の青年が事件を起こし、少年院に送られました。その事件を起こしたうちの一人、アーフーはアーウェンの次男。優秀な兄に劣等感を抱え、普段から問題を起こしてばかりだったアーフーのことを、父・アーウェンは息子として認めず、「少年院から死ぬまで出てこなくていい」と完全に見放してしまいます。

一方、兄のアーハオは、成績優秀で、医大を目指しており、父は「息子は一人だけだ」と品行方正な兄・アーハオの存在だけを認めていました。そんな父・アーウェンに対し、母・チンはどちらの息子にも同様に愛情を注いでおり、夫婦の間では争いが絶えませんでした。

そんな中、次男・アーフーが少年院送りとなった後、アーフーの子を妊娠したという少女・シャオユーが家を訪れます。このシャオユーがやってきたことがきっかけで家族それぞれに違った心の変化が出てきます。しかし、同時に悲劇も家族に近づいてくるのでした。家族はどこへ向かっていくのでしょうか─。

ストーリーは次男・アーフーと父・アーウェンを中心に展開し、そこに母・チンの愛情、絶望、前向きに進もうとする姿や、いつも穏やかな期待の息子でありながらどこか影を抱えているように見える兄・アーハオの様子など、家族の一人一人の心模様が丁寧に描かれています。

悪友とともに事件を起こし少年院に入ったアーフーを演じるのは、若手実力派俳優の巫建和(ウー・ジェンホー)。

プライドだけが高く、頑固で不器用、問題児の次男を見放し、優秀な長男に期待を注ぐ父親・アーウェン役を、自身も映画監督をする俳優の陳以文(チェン・イーウェン)。

弟のアーフーとは対照的に、誰にでも優しく穏やかな性格で、両親の期待を一身に背負う兄・アーハオ役は、モデルでもある注目の俳優・許光漢(グレッグ・シュー)。

どちらの息子にも同様に愛情を注ぎ、典型的な理想を抱く夫との関係に悩みながらも前を向き進んでいく母親・チン役を、テレビドラマなどで活躍する女優・柯淑勤(コー・シューチン)が演じています。

監督は、台湾の数々の映画賞を獲得している鍾孟宏(チョン・モンホン)。自身が監督だけでなく撮影も手掛けるこの作品は、光と陰のコントラストが効果的に使われていて、映像の美しさに惹かれるだけでなく、後になってそこには心情が映し出されていたことに気づかされます。

この映画のタイトルの原題「陽光普照」とは、“太陽はいつでも照らしている”という意味。兄・アーハオの「世界で一番公平なのは太陽だ」という言葉があるのですが、この言葉が意味することも、最後まで見終わってから改めて考えさせられる作品です。

ちなみに、英語タイトルは“太陽”という意味の「A Sun」となっていますが、これは“一人の息子”という意味の「A Son」とかかっていることにも気づかされます。

作品は156分と長めで、内容も全体的に暗い話なのですが、見終わった後にただその暗さや重さを引きずる感じではなく、どこか救いを感じるような作品です。

光と陰のコントラストだけでなく、この映画の中でとても印象的だったのが兄・アーハオの存在。アーハオの登場シーンは他の家族に比べて多くはないのですが、彼の言葉には心情が秘められていて、それもあとになってどういう意味だったのかをあらためて考えさせられる、作品の中でとても重要な存在となっています。

両親からの期待を背負い、弟がうらやむ光の下にいたはずの兄が、その太陽の光の下にいることが疲れて日陰に隠れたいと思ってもそれができなかった苦悩がとても印象に残りました。

ここ数年、台湾ではドラマでも映画でも、それぞれの立場からの心情を描いた社会派の作品が注目を集めていますが、この映画も観る人によってそれぞれが考えさせられるような作品となっています。

現在、今年のアカデミー賞国際長編映画賞のショートリストに選出されている台湾映画「ひとつの太陽」。今年のこの部門のショートリストには各国を代表する15作品が選ばれていて、ノミネートになるかどうかは、これから最終投票が行われ、来月3月15日に発表される予定です。

なお、映画「ひとつの太陽」は、日本では劇場公開されていませんが、Netflixで見ることができますので、機会があればぜひ観てみてください。

ただ、冒頭、まだ観ているこちらが油断しているタイミングでかなり衝撃的なシーンがありますので、苦手な方は気を付けてください。

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