文化の台湾 - 2020-09-09_「外交代替役」ってなぁに?台湾の兵役制度について

  • 09 September, 2020
  • 林 蕙如
台湾の「徴兵制」は廃止となり「志願制」となっている。ただ、1994年以降に生まれた満18歳の男性も4ヶ月間の軍事訓練を受ける必要がある。(写真:CNA)

先日、新型コロナの影響で太平洋の島国・ツバルに足止めされていた台湾の男性3人が台湾の行政院海洋委員会海岸巡防署の巡視船で無事に帰国し、その際、同様にツバルから離れるルートを探していた日本人2人も座席に余裕があったことから受け入れたというニュースが流れました。

ツバルは南太平洋に位置する、サンゴ礁からできた9つの島だけで構成されている小さな国で、新型コロナウイルスの感染予防措置として、日本を始め海外とのあらゆる交通手段を中断する国境封鎖を続けています。

今回、帰国できた3人の台湾人男性は、「外交代替役」として昨年からツバルに渡っていたのですが、ツバルは今年の3月から貨物を除く海と空の交通の中断を宣言しており、しかもその国境封鎖を来年2021年の3月まで延長すると発表したばかりです。

まもなく3人は「外交代替役」の派遣期間満了を迎えることから、政府は、飛行機や船をチャーターすることでツバルから脱出させる方法について何度もツバル政府に打診していたそうですが、ツバル政府はチャーター機などの着陸許可を拒んだことから実現できずにいました。ところが、最近ツバル側がようやく、8月から「中西部太平洋公海における海上警備」の任務に当たることになっていた台湾の海洋委員会海岸巡防署の遠洋巡視船がツバルに立ち寄ることに同意しました。海岸巡防署の巡視船は、8月21日にツバルに立ち寄り、台湾の「外交代替役」の3人と、仕事の都合でツバルに滞在しておりツバルからの出国の手段を探していた日本人2人も一緒に台湾へ連れて帰ってきたというわけです。

このニュースを見て、「外交代替役」って何だろう?と思った方もいると思います。「外交代替役」について説明する前に、まず、台湾には「兵役制度」があります。実は、“ありました”という表現になるのかもしれません。

台湾の徴兵制度は1949年に開始。過去60年以上にわたって、18歳以上の男子は、正当な理由がない限り兵役に服する義務がありました。台湾では昔から「兵役を終えないと一人前の男になれない」といわれていたそうです。

かつては陸軍2年、海空軍3年の兵役期間でしたが、台湾中国間の軍事的緊張の緩和や、若者に負担が大きいとの世論を踏まえて、兵役義務は徐々に短縮されていき、2012年には徴兵制ではなく志願制への移行の方針を決め、2013年からは1994年1月1日も含めてそれ以降に生まれた満18歳の男性は、4ヶ月間の軍事訓練を受けるだけでいいことになっています。この期間は、基礎訓練と専門訓練の2段階に分かれていて、それぞれ8週間に及びます。

当初は3年後の2015年に徴兵制を廃止する予定でしたが、少子化などで十分な数を確保できず延期されていましたが、全面移行への目途がつき、2018年に、徴兵制によって最後に入隊した412人が全員除隊し、志願制へ全面移行が完了しました。

なお、2018年12月19日から、「徴兵制と志願兵制」が共に存在する時代に入り、1993年以前に生まれた台湾の満18歳の男性は、1年間の代替役に服することが義務付けられています。

ですので、「兵役制度がありました」と言っても、まだ完全に兵役の義務がなくなったという感じはあまり受けません。

そんな「兵役制度」には「代替役」という制度があります。この「代替役」とは、ドイツやヨーロッパの“良心的兵役拒否者”のための「社会役」と呼ばれる制度を参考に、2000年に定められた制度です。

「代替役」の申請資格は、

●体格などが徴兵制に符合しない人

●特別なスキル、または免許などを持つ人

●家庭の事情による申請

●宗教上の理由による申請

これらの理由により、申請資格を獲得することができます。

そして、どのような「代替役」があるのかというと、警察官に適用される「警察役」のほか、「消防署役」、「社会役」、「公共行政役」といった“一般代替役”と、半導体やIT、国防などの科学技術や産業研究発展のための仕事である“研究開発代替役”があります。

なお「代替役」は、その理由や従事先によって期間が違います。ちょうど「徴兵制」から「志願制」に移行するにあたって、1993年より前に生まれた人と1994年以降に生まれた人で区切ってあり、現在は、1993年より前に生まれた人は、“一般代替役”は1年。“研究開発代替役”は3年。1994年以降に生まれた人は、“家庭の事情による代替役”の場合は4ヶ月間、“一般代替役”の国内従事者は6ヶ月間、国外従事者は10ヶ月間。“研究開発代替役”は1年6ヶ月間となります。

このような「代替役」のひとつで、国交樹立国で勤務する代替役のことを「外交代替役」と言います。今回、ツバルから無事に帰国した3人はこれにあたるんですね。

日本には兵役制度がないため、ピンと来ないことが多いと思います。私も台湾に着たばかりのころに友達の友達として出会った人が、「今、兵役期間中なんだけど、消防署で働いている」「土日は家に帰れるからこうして皆と食事にもいける」と言っているのを聞いて頭の中が“はてな”だらけになったのですが、このように、今では様々な職業について基地に入らず義務をまっとうするというパターンもあるようです。

「金馬奨」には選ばれたくない?≫

ちなみに、以前、徴兵制だった頃、任務地の抽選で最も怖いのが「金馬奨」と言われていました。「金馬奨」といえば、台湾版アカデミー賞とも言われる“ゴールデンホースアワード”のことでしょ?どうして兵役と関係あるの?」と思うところですが、その漢字から、“金”は“金門”、“馬”は“馬祖”の事を指し、“金門”と“馬祖”は、中国大陸にも近く、最前線とされていることから、不便でなかなか家に帰ることもできず、さらには危険ともとなり合わせだ…として、この“ゴールデンホースアワード”をもじって「金馬奨」には選ばれたくない!と言っていたそうです。

ところが、最近ではちょっと違っているそうで、「金馬奨」に選ばれると「おめでとう!」とうらやましがられるそうです。なんでも、かつては辺境の土地ということもあり、生活上で何かと我慢しなくてはならないことも多かったのですが、“金門”で任務を行ったことのある先輩によると、「砲弾は数年前に運び終わっているし、タクシーの電話さえ熟知しておけばいい任務先だ」とのこと。 “金門”は澎湖島よりも涼しくて心地いいそうですし、中には、「島ではカレンダーの赤い日はちゃんと休み。兵役についている事を忘れてしまう」という話も。今では“金門”も“馬祖”も観光地となっていて、リゾートにきているような気分になるんだとか…。昔の印象とはずいぶん違いますよね。しかも、手当てがあって一般の兵士よりも給料が高いのも魅力の一つなんだそうです。

以前の台湾のドラマなどを見ると、兵役で“金門”や“馬祖”に行くことになった男性をその彼女や家族が涙ながらに見送る…というシーンが出てきたりしていましたが、今やそんなシーンも見かけることはないのかもしれませんね。

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