ようこそT-roomへ - 2021-01-13_「疫郷帰人」と「新海帰時代」とは

  • 13 January, 2021
台湾の「就職博」(写真:CNA)

 リスナーの皆様の中で、海外で暮らしている、働いているご家族、もしくは友人がいる、という方はいらっしゃいますか。 私は台湾で暮らして今年でちょうど15年目になりますが、台湾に来て驚いたことの一つが、本人が海外で働いていたことがある、きょうだいや親戚が海外で働いている、暮らしている、という人の多さです。

 私が暮らしているのは、大都市の台北市の中心部であり、台湾の中でも地域差はあるかとは思います。ただ、実際に、台湾はこの30年間、いわゆるホワイトカラー人材の海外流出は世界でも有数のレベルとされ、特に中国大陸への流出は、台湾における中産階級の空洞化、給与据え置きの大きな要因とされていました。

 こうした中、中華民国政府は、いかにして優れた人材、いわゆる高度人材を台湾に留まらせるか、もしくは、海外で働いていた高度人材のUターンを促すことができるかについて、頭を悩ませていました。

 同時に、台湾では、高度人材が海外へ流出する一方、主に東南アジアの国々から単純労働者を受け入れている状況である為、外国人の高度人材、ホワイトカラーの受け入れを推進するため、こうした外国人の高度人材が台湾に定住しやすいよう法律の改正も行われました。

 しかし、ここにきて新たな動きが出ているんです。それは、新型コロナウイルスの流行の影響による、海外で働いていた人たちの台湾への、いわゆる「里帰り」現象です。今週の「ようこそT-ROOMへ」は、こうした海外で働いていた人の「里帰り」現象について、そして、戻ってきた人たちの声についても紹介したいと思います。

 まずは、今、海外で働いている台湾の人々はどれくらいいるのか、統計をご紹介しましょう。昨年2020年末に行政院主計総処から発表された、一昨年2019年、つまりコロナ前の統計ですが、この統計によりますと、2019年、海外で働いていた台湾の人々の数は73万9000人でした。2009年から2019年の10年間の変化では7万7000人増えました。国・地域、エリア別では、香港、マカオを含む中国大陸が最も多く39万5000人、割合では全体の53.4%を占めました。東南アジア諸国が12万人で全体の16.2%、そしてアメリカが9万2000人で、全体の12.5%を占め、この3つのエリアで、実に全体82%を占めています。

 ちなみに、2009年から2019年の10年間の増減をみてみますと、中国大陸は1万4000人、割合で全体の61.7%から53.4%まで減ったほかは、いずれも増加、特に東南アジア諸国の増加が顕著となっています。

 今ご紹介したのは2019年の統計です。最も多いのは中国大陸で39万5000人という統計が出ましたが、国立台湾大学国家発展研究所の辛炳隆(しん・へいりゅう)所長は、実際には、中国大陸にはおよそ110万人の人がいるとみており、家族を含めると200万人に達するという指摘もあります。中華民国台湾の人口が2350万人ですので、相当な数ですよね。

 このように、中国大陸を中心に、たくさん台湾の人が海外で暮らしていますが、新型コロナウイルスの流行による先行きの不透明さもあり、昨年2020年の1月から10月の10ヶ月間で、海外から台湾へ、およそ25万人の人たちが戻ってきました。そして、その大部分が中産階級だといいます。

 ソフトエンジニアの張さんは、5年前、台湾のインテルを退社し、中国大陸のチターモバイルの台湾子会社に転職、一年後、中国大陸、北京の総本部に異動となりました。中国大陸では、会社の広告収入の半分を稼ぐやり手として活躍しました。しかし、昨年新型コロナウイルスが発生、台湾に戻る決意をした彼は、就職活動を始めましたが、意外にもなかなか仕事は決まりませんでした。

 4ヶ月の就職活動期間、度々言われたことは「アメリカの企業、そして中国大陸の企業に勤務し、君のキャリアは素晴らしい。しかし、我々は君ほどキャリアのある人は雇えない」という言葉でした。十分なキャリアがあることは強みであると思っていた張さんでしたが、実際に台湾で、張さんのキャリアに見合うだけの給料を出せる企業は限られており、逆に敬遠されてしまったのです。張さんは7社目の面接で、ようやく就職することができました。

 国家発展委員会の辛炳隆(しん・へいりゅう)所長は、内需の市場が大きい中国大陸の企業は、こうした優れた人材を獲得できれば、企業の収益を10倍に伸ばすことができ、台湾の5倍の給与を払っても惜しくないと考える一方で、内需が限られている台湾の企業は、給与を抑えざるをえないとして、ここが台湾の一番のウイークポイントであると指摘しました。

 台湾に戻ってきたはいいけれど、理想的な給与が得られないというケースは、やり手の張さんに限った話ではないようです。現在、台南サイエンスパークの工事現場で監督をつとめる廖さんは、昨年2月下旬、家族からの電話を受け、台湾に戻ってくることを決めました。

 海外の台湾企業の工場で幹部として働いていた廖さんでしたが、いざ台湾に戻ろうとしたところ、なかなか希望通りの収入が得られる仕事がみつかりませんでした。結局、5月に台湾に戻ってきたものの、仕事上で収入減を呑まざるを得ず、家庭においても、3年ぶりの妻、子供との生活上で、立場が弱くなってしまったようです。

 国家発展委員会の龔明鑫(きょう・めいきん)主任委員は、海外から台湾に戻ってきた、元台湾企業の幹部は、これまで、自身の経験をもとにして、工場などで組織のマネージメントを行ってきた人が少なくないが、現在、台湾市場で求められているのは、語学ができる、デジタルに強いなどといった、能力をもった人材である、と強調しました。

 新型コロナウイルスの市中感染がほぼ抑え込まれている台湾ですが、まだ先行きがみえないこともあり、台湾企業の採用も慎重となっています。ある人材派遣会社の幹部は、今、海外から帰国した人たちに向け、仕事がみつかるまでに一定の時間がかかること、海外で勤務していた時期よりも給与が下がることを覚悟する必要があると指摘しています。

 一方、別の人材派遣会社の幹部は、25万人とも言われる「里帰り」の人たちが台湾に戻ってきた今こそ、最も優秀な人材が台湾に留まっているタイミングだとして、こうした人達を、台湾のレベルアップに寄与する人材だと考えなくてはならない、と強調しました。

 また、人口地理学の学者も「仮に彼らに、台湾にもチャンスがあると思わせることができなければ、彼らは新型コロナウイルスが収束したら、また台湾を離れていってしまうかもしれない」と分析しました。

 コロナ禍において、企業も生き残りの為に必死かもしれませんが、優秀な人材が戻ってきた今こそ、彼らが実力を発揮できる舞台を準備してほしい、そのように思います。

 

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