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ようこそT-roomへ - 2020-12-16_台湾の「開放山林」政策とポストコロナ時代の登山ブーム

  • 16 December, 2020

 リスナーの皆様は、登山、トレッキングはお好きですか。10年ほど前、日本では「山ガール」という流行語がありましたが、近年の健康ブームに加え、ファッショナブルなアウトドア用品が普及しました。もちろん、登る山の難易度にはよるとは思いますが、本格的な登山愛好者や、青春時代ブームだったシルバー世代のみならず、性別、世代を問わず多くの人たちが、レジャー活動として登山、トレッキングを楽しんでいるようです。

 中華民国台湾は国土の面積こそ日本の10分の1ほどですが、ご存知の通り、最高峰の玉山は3952メートルと富士山よりもたかく、また、3000メートル以上の山は日本は20あまりであるのに対して、台湾には何と268あります。そして、台湾には数多くの登山愛好者がおり、日本で登山を楽しむ人もたくさんいます。

 そして、こうした台湾の愛好家も以前は、本格的な登山愛好者、もしくは定年後のシルバー世代が中心でしたが、近年、台湾も日本と同様、少しずつ、その裾野が広がっています。

 さらに、昨年10月、中華民国政府の内閣に相当する行政院が、「開放山林」政策を打ち出しました。4年間で、台湾元7億元(日本円にしておよそ26億円)の予算が投じられるこの政策は、山が人々にとってより身近な存在となるよう、これまで「管理」を基本政策としていた入山、登山について、一部エリアを除いて原則的に許可、さらに手続きを簡素化するという、いわば規制緩和で、大きな方針の転換となりました。

 この「開放山林」政策は、「山間部の開放」、「情報の透明化」、「利便性向上」、「啓蒙、普及」、「責任所在の明確化」の5つの柱からなり、さきほどご紹介した入山の許可や手続きの簡素化のほか、登山道、山小屋などインフラの整備、山に親しみをもってもらうと同時に事故や遭難を防ぐ為の教育、そして、責任に対する自覚についての啓蒙も含まれています。

 こうした、「開放山林」政策の後押しに加え、今年は新型コロナウイルスの流行により海外へ渡航できなくなったこともあり、台湾では今年6月ごろから、空前の国内旅行ブームとなり、同時に登山ブームも起きました。そして、自身のSNSに美しい景色との自撮り写真をアップロードする若い女性も増えたんです。

 一方で、登山ブームによる課題も色々と見えてきました。それは事故、遭難の増加、一部の登山客のマナーの悪さなどのトラブルです。

 後半では、こうした課題についてご紹介していきましょう。内政部消防署の統計によりますと、2002年から2019年の期間、一年間に発生する山岳遭難事故の件数は平均159件でしたが、今年2020年は1月から8月までのわずか8ヶ月間で295件と、年間平均を大幅に上回りました。

 消防署の職員は、山岳遭難事故の発生件数の増加は、新型コロナウイルスの流行による、海外への渡航自粛要請が出された時期と重なっているとして、海外に渡航できなくなった人たちが、レジャー活動として山を目指したものの、登山には一定の装備が必要なこと、リスクについて十分に理解していなかったことにより、山岳遭難事故が急増したと考えられると指摘しました。

 例えば、日本の皆さんにもおなじみ、北部、新北市、かつて金の採掘で栄えた九份の奥、黄金博物館のある金瓜石(きんかせき)から入ったところにある「剣龍稜(けんりゅうりょう)」は、その特殊な地形、景観が話題となり、人気の登山スポットとなっていますが、一定の体力、経験、技術が求められます。こうした中、時間を読み違えたり、道に迷ったり、さらには日焼け対策や飲料水の準備を怠り、熱中症になる人が多く発生しました。

 消防署では台湾の山について、難易度別に3つのレベルに分けていますが、統計によりますと、山岳事故の発生件数は、その山の難易度に関わらず、有名な山での発生が増えています。いわゆる3000メートル以上の「高山」においても、登山道が整備されており、難易度はそれほど高くないとされる玉山、合歓山での山岳事故が最多となりました。

 また、山岳事故と同時に救援要請も増えており、特に「道迷い」の件数は今年1月から8月の期間、前年比で2.5倍の745件となっています。消防署はこの原因として、経験不足の登山者の増加を指摘、さらに、不十分な装備で登山している人々も多い上、動けなくなったら助けを求めればいいという意識の人も以前に比べ増えている、と顔を曇らせました。

 登山には、単独行とグループを作って登山するパーティー登山がありますが、台湾ではインターネットで同志を募り即席でパーティーを結成するケースが少なくありません。また、海外へ渡航できない中、旅行代理店も新たなブルーオーシャンとして、登山ツアーを企画しています。こうした即席パーティー、登山ツアーへの参加者の総数は、もともと単独行や学生や社会人の登山サークルの登山者数よりも多かったということですが、今年に入りこうした人達の事故発生数の増加が特に顕著となっており、全体の74%を占めています。

 この他、指摘されているのがマナーを巡る問題です。その形状から台湾の富士山と呼ばれる北西部苗栗県の「加里山」は、難易度も手頃で登山客の人気を集めていますが、近頃、登山客によるゴミ問題がクローズアップされています。また、内陸県南投県と東部・花蓮県にまたがる能高山では、唯一の山小屋が来年2月まで予約で埋まっており、登山道にテントが並ぶ状況が発生しました。

 自身も登山の愛好家だという北部・新竹市の市議会議員、廖子斎・議員は、「開放山林」政策そのものについては評価した上で、現在の登山ブームにおいては、既存の救援、捜索能力では対応しきれないことを直視すべきだ、と指摘、また、教育部と行政院農業委員会林務局が協力し、学校教育の段階から子どもたちに、山岳、アウトドアに対する知識をつけてもらう為の活動をするべきだ、と提案しました。

 また、現場で活動する山岳救援隊は、登山者が出発前に、より正確に検討、判断ができるよう、日本を参考に、山のレベル分けを徹底し、その山に登るには、どれほどの経験、能力が必要かをはっきりと明示すべきだと指摘、同時に、共通の基準づくりが必要だと強調しました。

 「開放山林」政策という規制緩和のあと、新型コロナウイルスの流行による国内旅行、登山ブームが重なったことで、様々な問題も起きているようですね。

 ただ、山登りも、最初は誰もが初心者、政府、関連部署によるルールづくりはもちろん、旅行代理店やパーティーの中の経験者など、一人ひとりが高い意識をもって、初心者に教育、指導をすることで、台湾の登山文化を、再び優れた方向に修正していって欲しいですね。

 

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