新型コロナによって、世界はこれまでの生活方式とは変わってしまった部分も多くあります。自由に旅ができないとか、自宅でオンラインで仕事をしたり授業を受けたりなど、これまでほとんどの人が想像すらしたことなかったのではないでしょうか。
同様に「まさかこの年からこんなことにチャレンジするとは」と思った台湾のあるベテラン芸能人に今、注目が集まっています。
そのベテラン芸能人とは、「脫線」こと陳炳楠さん。ご存知の方、いらっしゃいますか?
レンズなしの丸眼鏡に大きな革靴、短いネクタイ、チャップリンハットが特徴の人気コメディアンです。
陳炳楠さんは1933年10月10日、台湾北部・新竹に生まれました。
13歳から自動車整備の見習いをし、後に映画会社の運転手を務めます。
17歳から芸能界に入り、「脱線」という芸名で活動。映画に出演し始めると、次第に人気となり、100本近い映画に出演し、50枚以上ものお笑いレコードを収録しています。
そして1968年、中国電視公司(略称:中視/CTV)が開局すると、100本近いテレビドラマや、コンサート、レストランショーに次々に出演、台湾を代表するコメディアンの一人として40年以上にわたって活躍しました。
1994年に、セミリタイア状態で台湾南東部・台東に移住、「脫線休閒牧場(脱線レジャー牧場)」を作り、「讚鬥雞」というブランドで鶏を育てるなどしています。
最初の頃は、芸人から農家に転身したばかりで経験不足から損失ばかり出していました。しかし、真剣さ、忍耐力、そして台湾精神をもって取り組み、ついには高品質の「脫線讚鬥雞」を台湾全土にプロモーションするまでになり、台湾芸能人のモデルとなりました。また、牧場は休日のレジャー型環境に変換していきました。
近年は観光スポットとして人気となっていて、今は牧場の責任を息子さんに任せているそうですが、時にはお客さんからのリクエストに応えて歌ったりしていたそうです。
ところが、今年(2021年)5月に台湾全土で新型コロナの感染が広がり、防疫警戒レベルが3級に引き上げられたことで「脫線休閒牧場」も休園することとなりました。
この間、収入がないわけですので、スタッフを無給休暇とする企業や施設も多いのですが、スタッフを無給休暇にするのは耐え難いとして、この度、陳炳楠さんは息子さんと一緒にネットでのライブ配信を始め、「脫線休閒牧場」の露出を増やし、製品の販売を続けることで、スタッフを引き続き働けるようにしました。
初のライブ配信ではコメディアン「脱線」について語りました。最初に「今の若い人は私を知らないと思うが、86歳以上の人はおそらくみんな私のことを知っているだろう」と話す「脱線」こと陳炳楠さん。ライブ中継では「みんなちゃんと『牛嘴籠』を忘れずにつけてよ!」と、牛の口を閉じるためにはめる籠を比喩として“マスクの着用”を呼び掛けるなど、軽快な語りは今も健在。
生放送にチャレンジし始めたばかりだというのに、すぐにスター魂が沸きあがってきて、話し始めたら止まらず、その勢いはネットの視聴者から「エネルギーがすごい」と称賛されるほどで、スマートフォンの充電が切れてしまうまで1時間近くも生中継をしていました。
初のライブ配信は1700人以上もの人がリアルタイムで視聴し、その後も映像は4000を超えるコメントと、39万回再生されています。
そしてその後のライブ配信も同様に毎回1000人以上がリアルタイムで視聴し、その後も10万回以上再生されています。
今回、87歳にしてネットのライブ配信を始めたベテランコメディアン「脱線」こと陳炳楠さんはライブ配信について、「まさかこんな子供の遊びのようなものがこれほど元気にさせてくれるとは思わなかった」「毎日目を覚ますと、今日も頑張ってお金を稼ごうと思える」と語っています。
今、陳炳楠さんの唯一の趣味は歌を歌うことで、ライブ配信でもその歌声を披露していて、ファンも喜んでいるようです。
このライブ配信は、現在は毎週火曜、木曜、土曜の午後3時から配信しています。
この時間についても、台湾では毎日午後2時から新型コロナウイルス感染症対策本部である中央感染状況指揮センターの記者会見が行われていることから、陳炳楠さんは、「まずみんな(指揮センターの)陳時中・部長による新型コロナの感染状況の中継を見て、台湾の関心ごとを確認してから『脱線』の生中継を見よう」と語っています。
陳炳楠さんの息子さんは、「父は90歳近くになるが、おそらく彼は現在最年長のライブ配信者だ」と語っています。
新型コロナによって地域の経済活動のパターンが変わってしまいましたが、牧場で働くスタッフたちを無給休暇にしたくないという思いから、90歳近い一人のベテランコメディアンが“最高齢のライブ配信者”という新たなステージにもチャレンジし、新たなファンも獲得しています。