先日、アメリカの経済雑誌「フォーブス」が、2021年の「台湾の富豪」ランキングを発表しました。それによると、日本でも有名な鴻海創業者の郭台銘氏は、資産71億米ドル(日本円およそ7,700億円)で昨年の資産69億ドル(およそ7,500億円)から資産額は伸ばしましたが、順位は4位から6位へと下げました。
では、上位5位はどのような顔ぶれだったのかというと、
5位が、半導体パッケージングおよびテスティング(封入・測定)最大手の日月光半導体製造(ASE)の張虔生、張洪本兄弟。資産額72億ドル(およそ7,800億円)
4位は、食品メーカー大手・頂新グループの魏氏四兄弟。資産額78億ドル(およそ8,500億円)。この魏氏四兄弟は昨年(2020年)の1位でしたが順位を下げました。
3位は、金融大手、富邦金融控股(フーボン・フィナンシャル・ホールディングス)の蔡明忠、蔡明興兄弟。資産額79億ドル(およそ8,600億円)
2位は、同じく金融大手、國泰金融控股(キャセイ・フィナンシャル・ホールディングス)の蔡宏圖、蔡政達兄弟。資産額は92億ドル(およそ1兆円)でした。
そして今年(2021年)の1位に輝いたのは…宏福實業の張聰淵氏でした。
その資産額138億ドル(およそ1兆5,000億円)でした。
このフォーブスの「2021台湾の富豪」ランキングで1位となった宏福實業の張聰淵さん。一体どんな人なのかしら?と、フォーブスののランキングのページを見てみると、他の上位の人たちは写真があるにも関わらず、まさかの1位の張聰淵さんの写真がありません。
さらに台湾の各メディアのニュースを見てみても、「台湾の富豪1位になった張聰淵とはいったい誰?」という見出しの記事が出てくるなど、台湾でもあまり知られていない存在の人のようです。
ネットニュースなどでは「神祕鞋王(謎の靴の王様)」などと書かれていますが、一体、宏福實業とはどのような会社で、張聰淵さんとはどのような人物なのでしょうか。
張聰淵さんは台湾中部・雲林の出身、1948年生まれの今年73歳。
雲林に靴の製造メーカー「宏福實業」を創設し、50年以上の靴の製造経験を持っています。
ただ、今も雲林にある工場は古いトタンの建物で、靴を製造する機械は見当たりません。また、周囲を田んぼに囲まれていることもあって、一見、農家のように見え、若い人たちは地元の人でもこの会社のことを知らない人も多いそうです。
しかし実は「宏福實業」は、30数年前には、300人以上のスタッフを抱えていて、村の若者のほとんどが社員だったという企業だったそうです。1990年代に、生産の拠点を中国へ移動。広東省中山にグループの本部を設立。そして今度はベトナムに拠点を移し、ミャンマーやドミニカにも生産ラインを拡大。現在はそれらを拠点に様々な靴底、靴の素材、種類の設計・生産しています。
最初に立ち上げたこの雲林の「宏福實業」の古い工場は、現在は靴製造用の材料の倉庫センターとしてのみ使用されていて、一部のスタッフと移動のための管理センターだけが残っているんだそうです。
それで今では地元でもあまり知られていないようです。
ちなみに、「宏福實業」の最大の顧客は有名スポーツブランドの「ナイキ」で、「ナイキ」の10大サプライヤーのひとつとなっているほか、プーマやコンバース、UGG、Vansなど多くの有名ブランドのサプライヤーでもあります。
実は台湾は靴の製造大国で、「宏福實業」を含む台湾の5つの企業で世界の7割以上の製造を担っています。
そんな中、「宏福實業」は、世界第2位の靴の製造メーカーで、中国の福建省、広東省、河南省、そしてベトナム、ドミニカ共和国に合計21の工場を持ち、全世界でおよそ13万6000人が働いています。
年間、1億8000万足以上の靴を生産していて、そのうち8割近くがスポーツカジュアルシューズです。
なお、ベトナムの紡織業界では、同じく台湾の企業で業界1位の「寶成国際グループ」と共に、「南の寶成、北の宏福」と呼ばれているそうです。
世界第2位の靴の製造メーカーの創業者…と聞くと、すごくやり手のギラギラした人物かと思いきや、張聰淵さんはとても控えめな人物で、工場で仕事をするときには社員食堂でスタッフと一緒に食事をしたりするそうです。
2014年に豪邸を購入したことで、お金持ちだということをみんなが知ったということですが、「とてもまじめで、とてもいい社長だ」と、社員からも高い評価を得ています。
30年以上働いているベテラン社員は、工場を移転するとき、年齢のことを気遣い、旧工場に残らせてもらったそうで、「社長はとても真面目なだけでなく、従業員に対して特に良くしてくれた。こんな上司と出会えたことはとても幸運だと」語っています。
また、30数年前に10年ほどこの工場で働いていたことのある高さんは、「スタッフとも仲が良く、よく挨拶をしていたし、社員とよく一緒に活動していた印象だ」と話し、20代の時に働いていたことがあるという58歳の廖さんも、「近隣の村の人もこの工場で働いていることが多かった。従業員をとても大切にしていたのを覚えている」と語っています。
ちなみに近所に住む人は、今回、張聰淵さんが「台湾一の富豪」というニュースを聞いて、「真面目に経営していて、お金持ちだとは知っていたけど、郭台銘よりお金持ちなんて!!」と驚きを隠せないようです。
皆、張聰淵さんがビジネスで成功していることは知っていましたが、台湾で一番のお金持ちになるとは思わなかったそうです。
ただ、一生懸命に努力し、成功した張聰淵さんは、雲林の光となっています。