<第1セクション:台湾の「牡蛎ロード」の中心地「東石」>
- 台湾中南部の彰化、雲林、嘉義、台南にかけての西海岸沿いは、「牡蛎ロード」と名付けてもいいほど牡蛎の産地が点在する。とりわけ嘉義県東石は、彰化県王功、雲林県台西とともに台湾の牡蛎の三大名産地に数えられ、嘉義県文化観光局の資料によれば、東石だけで台湾の養殖牡蛎のほぼ3分の1もの生産量を誇っている。
- 東石は嘉義市の中心地からは50kmほど離れており、1日2、3往復の路線バス以外に公共交通手段はほぼ無い。ローカルバスに揺られること1時間半。東石に着くと、まず道路脇に塀の如く高く積み上がった牡蛎殻の山が眼に飛び込んで来る。軒先には、家族ぐるみで一心に牡蛎を剥く人々の姿が見える。
- 小さな町の中心の通りには、牡蛎料理専門店がいくつも軒を連ねている。牡蛎はこの町の生活風景そのものだった。食堂に入った。生牡蛎、焼き牡蛎、牡蛎餃子、牡蛎の揚巻、牡蛎焼きそば、牡蛎雑炊等、滋味豊かな牡蛎づくしの宴は至福のひと時。
<第2セクション:台湾のスタンダードナンバー『青蚵仔嫂(牡蛎売りの嫁)』>
- 台湾には『青蚵仔嫂(牡蛎売りの嫁)』という誰でも知っている歌がある。台湾民謡『台東調』のメロディーに乗せて郭大誠さんが歌詞を書き、1970年にここで麗娜が歌ったのが『青蚵仔嫂(牡蛎売りの嫁)』。この曲は1976年に台湾テレビの同名のドラマ主題歌となり、爆発的なヒットして台湾のスタンダードナンバーの一つに。
<第3セクション:天然の防波堤に守られて育つ牡蛎たち>
- 台湾と牡蛎の関わりは古い。400年近く前、鄭成功が台南を統治した時代には、牡蛎を税として納めたとの記録が残る。台湾の養殖牡蛎の発祥地については、300年ほど前に中国から鹿港に最初に伝わったという説と、東石がその始まりだという二説がある。いずれにせよ、東石に古くから牡蛎の養殖業があったことには間違いなかろう。
- 牡蛎は波のストレスを受け易く、環境の変化に敏感なため、内湾で育てられるのが常である。この点、東石は大変恵まれた地理的条件を備えている。東石の沖合には、「外傘頂洲」という全長10kmの台湾最大の砂洲が横たわっている。これが台湾海峡の外洋からの波を遮断する天然の防波堤となり、穏やかな海中でここの牡蛎はすくすく成長する。
- 私も遊覧船で東石漁港から外傘頂洲に向かった。無数の牡蛎の養殖筏が外傘頂洲を背に静かに波間に揺らめくのを眺めながら、海面下の見えない牡蛎に想いを馳せた。