先月発表された今年(2022年)の「台湾版ミシュランガイド」で、ミシュラン特別賞として、「ソムリエ大賞」に選ばれた林允順さん、そして「ヤングシェフ賞」に選ばれた「T+T」の蔡元善(Johnny)シェフと古俊基(Kei)シェフをご紹介しましたが、もう一人、今年のミシュラン特別賞に輝いた人物がいます。
その人物とは…台湾中部・台中にあるフレンチレストラン「鹽之華(Fleur de Sel)」の余佩凌(Pauline)さん。
余佩凌(Pauline)さんは今回、ミシュランガイド特別賞、「サービス大賞」に選ばれました。
この「サービス大賞」とは昨年(2021年)に新設された賞で、プロフェッショナルかつ魅力的であり、レストランでの体験が特別なものになるような接客をする人に授与される、サービスに対する心からの情熱を称える賞です。
レストランは、やはり料理が柱ですが、どんなに美味しい料理も、スタッフのサービスによって、印象が更に良くなったり、逆にがっかりすることになったりもします。
そんな重要なサービスにおいて、訪れる人を心地よくさせ、おもてなしに優れた、素晴らしい接客をしているとして、今回、余佩凌(Pauline)さんが「サービス大賞」に選ばれました。
オープンして18年というフレンチレストラン「鹽之華(Fleur de Sel)」。余佩凌(Pauline)さんはそこでフロアマネージャーとしてサービスを担当していますが、この「鹽之華(Fleur de Sel)」の黎俞君シェフとは、このお店で働くよりも以前からの知り合いなんだそうです。
なんでも、余佩凌(Pauline)さんが大学生の時、黎俞君シェフが台中にオープンしていたイタリアンレストラン「PaPaMio」を見かけ、そこの看板に「うちがおそらく一番美味しいイタリアンでしょう」と書かれていて、それに惹かれて、そのまますぐに面接に行ったんだそうです。
これがきっかけで余佩凌(Pauline)さんは飲食の世界に足を踏み入れました。
大学卒業後は広告代理店で働いていましたが、その時も、よくシェフや店の仲間を訪ねて店を訪れたり、一緒にバーベキューをしたり、火鍋を食べたりして、いろんな話をしたそうです。
その際に、フランスやイタリアの美食や音楽の話なども聞き、ヨーロッパ文化への扉が開かれていきました。
そしてヨーロッパ文化に対して熱い思いを持つようになった彼女は、「鹽之華(Fleur de Sel)」に入社。最初は管理部門で働き、数年後にフロア担当となりました。
余佩凌(Pauline)さんは、海外で飲食のための勉強をしてきたわけではありませんが、黎俞君シェフから与えてもらった、違った形での飲食の勉強の機会によって多くの刺激を受けてきました。
例えば、毎年11月は、ヨーロッパはちょうどキノコや狩りの季節で、黎俞君シェフが、時間を見つけては、「リフレッシュ」としてレストランのスタッフを引き連れてヨーロッパに行き、星付きレストランで食事をして、調理場のスタッフだけでなく、フロアのスタッフにも刺激を与えていたそうで、余佩凌(Pauline)さんもさまざまな勉強や経験をさせてもらったそうです。
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また、日頃から美味しい料理と美味しいお酒をこよなく愛し、生活の中から飲食が切っても切り離せないという余佩凌(Pauline)さんは、自身でも世界各地のミシュラン星付きレストランを訪れていて、これまでに少なくとも200の星付きレストランに足を運んでいるそうです。
余佩凌(Pauline)さんは、「私はミシュランの星付きレストランに行くとき、客であるだけでなく、観察者でもある」と語っていて、それぞれのお店でのサービススタッフの行動や会話を観察し、各国の飲食に対する考え方を理解し、その国の一流レストランのサービスを学び、それを「鹽之華(Fleur de Sel)」のお客様に還元していっているそうです。
6、7年前、スイスのある一つ星レストランで食事をしていた時、隣の夫婦が結婚記念日のお祝いをしていたのですが、奥さんが誤って白い布にワインをこぼしてしまい、旦那さんが少し怒って、ロマンチックな雰囲気が一転、気まずくなってしまったのですが、その時のサービススタッフがすぐに「すみません、失礼します」と対応に入り、空いた別のテーブルに案内をしたそうで、その時のサービススタッフの対応力とお客様のための出来る対応の経験が深く印象に残ったんだとか。
また、日本の三ツ星レストランで食事をした際に、料理に出てきた魚の種類や知識について尋ねたところ、サービススタッフは、答えてくれただけでなく、その後すぐに関係資料を印刷して渡してくれたそうで、とても感動したんだそうです。この経験から、同じように食を愛するお客様に聞かれて「わかりません」と答えるのではなく、もっと共有したいという思いからソムリエやオイルソムリエの試験を受けたんだそうです。
そして、そこからさらに、お店やメニューのことだけでなくても、例えば他の地域から食事に来たお客様から、近くでおススメのスポットはない?と聞かれたら、日本でしてもらった時と同じように、情報を印刷してお客様に教えてあげたりしているんだそうです。
常にお客様のことを考え、自身が触れてきた経験を、今度は自身が提供する側として経験に変え、食事に訪れた人たちに美味しい料理にプラスして心地のいい時間を与えてくれる余佩凌(Pauline)さんのサービス。
今回、獲得した「サービス大賞」は個人賞ですが、余佩凌(Pauline)さんは何度も、「良いサービスは絶対に“チーム”で行うものだ」と語り、「個人的には、今回の受賞は『鹽之華(Fleur de Sel)』のフロアチームが協力した結果だと思っている。日頃からのコミュニケーションや協力なくして、一人で質の高いサービスを提供することはできないと思う」と語っています。
「鹽之華(Fleur de Sel)」の料理はもちろんですが、そんな余佩凌(Pauline)さんに会いに来るお客様もきっと多いんでしょうね。
今後の余佩凌(Pauline)さんの活躍も楽しみです。