先週土曜日(11/27)、台湾版アカデミー賞と言われる中華圏最大の映画賞「第58回 金馬獎(ゴールデン・ホース・アワード)」の受賞式典が行われました。
今年の金馬獎はとてもし烈な争いで、多くの大作が主要な賞を競り合っていました。
中でもやはり特に注目なのが、作品賞、主演男優賞、主演女優賞。
今回、最優秀作品賞に輝いたのは、鍾孟宏(チョン・モンホン)監督の作品「瀑布(The Falls)」でした。
この映画は、今年(2021年)2月に、“世界最高峰の映画の祭典”である「アカデミー賞」の国際長編映画賞のショートリストに「陽光普照(A Sun/邦題:ひとつの太陽)」が選出され、国際的に注目を集めるようになった鍾孟宏・監督の長編第6作。
この作品「瀑布(The Falls)」は、新型コロナウイルスによるパンデミックが始まった直後の台北を舞台に、自宅隔離をきっかけにして大きな荒波にさらされる母と娘の関係が描かれた、鍾孟宏・監督が初めて女性の目線で社会を観察した作品です。今年(2021年)9月に行われた「第78回 ヴェネツィア国際映画祭」の、斬新な作品を集めた“オリゾンティ部門”に選出され、初公開されました。
その作品の主演を務めたのが、賈靜雯(アリッサ・チア)。
台湾の女優さん、そんなに詳しくないのに最近どこかで名前を聞いたような…という方もいらっしゃるかもしれませんね。
日本でも放送され、話題となった社会派ドラマ「我們與惡的距離(邦題:悪との距離)」で、無差別殺人事件で息子を亡くしたテレビ局のニュース副局長役を演じた女優さんです。
1974年台北市で生まれた賈靜雯。
2人姉弟の長女で、6つ年下で、現在、歌手として活躍している弟がいます。
子供の頃、実家がレストランを営んでいたことから、賈靜雯は幼い頃、多くの時間をそのレストランで過ごしていたそうです。
中学3年生の時、賈靜雯はスカウトされ、1990年に、人生初のCMに出演。その年、初めてテレビドラマにも出演しています。
その後も、次々と他の広告やドラマの撮影が来るようになった彼女。
台北市にある台湾唯一の歴史ある芸術系の高校、華岡藝術學校の演劇コースで2年間学んだあと、父親が仕事の都合で中国大陸に渡ることから、父親について中国へ行き、中国で唯一、映画関係の人材を専門に養成する大学である「北京電影學院」に入学しました。
しかしその後、父親が事業に失敗し、台湾に戻らざるを得なくなり、その後、父親が病気で亡くなってしまったことから、家計が苦しくなり、家計を支えるために芸能界へと入りました。
台湾に戻ってから、ドラマに出演したり、子供番組の司会者などを行っていましたが、1997年に出演したファミリードラマ「四千金(4 Daughters)」で、台湾版エミー賞と呼ばれる、台湾のテレビ番組賞「金鐘獎(ゴールデンベルアワード)」で最優秀新人賞を獲得。これにより、賈靜雯・本人も、女優業にも力を入れるようになりました。
その後は、台湾で女優として、そして司会者としても活躍をしてきた彼女。
2001年に活動の焦点を中国大陸へと移し、中国のドラマにも多く出演するようになりました。
2003年には、イギリスの国際的な男性向け生活情報雑誌「FHM」が選ぶ「世界で最もセクシーな女性100人」のアジア編で第1位に選ばれました。2004年にも「世界で最も魅力的な女性100人」で2位、「世界で最も注目される美しい女性50人」の第7位に選ばれています。
その2004年には、台湾の有名な絵本作家、幾米(ジミー・リャオ)の絵本を原作としたドラマ「向左走,向右走(邦題:君のいる場所)」などで主演を務めました。
2005年には結婚、出産をし、一時は表舞台に出てくる機会が減りましたが、また司会者として番組に復帰。そしてその後も、台湾と中国などで様々なドラマに出演しています。
そして2019年、社会派ドラマ「我們與惡的距離(悪との距離)」で15年ぶりに台湾のドラマに登場。このドラマでは、一つの無差別殺人事件を軸に、被害者家族であり、メディアの人間であるという立場で、加害者の家族とかかわることになった際の葛藤を見事に演じ、その年のテレビ番組賞「金鐘獎(ゴールデンベルアワード)」で最優秀主演女優賞を獲得しました。
そして、今回は映画「瀑布(The Falls)」で自身初の「金馬獎(ゴールデン・ホース・アワード)」最優秀主演女優賞を獲得しました。
この「瀑布(The Falls)」では、役作りのために1か月間、外に家を借りて家に帰らなかっただけでなく、病院の精神科センターに通い、患者の変化を観察したりしたんだそうです。
今回、主演女優賞は“死のレース”と呼ばれるほどし烈な争いでしたが、見事最優秀主演女優賞に輝きました。
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そんな賈靜雯は、プライベートでもお母さん。最初に結婚した旦那さんとは2010年に離婚していますが、その後、台湾の俳優・修杰楷と再婚し、二人の間にも子供が誕生して、現在3児の母でもあります。
今回の役柄を通して、「母親の中では私たちは永遠に子供。でも同時に、母親も子供になっていて、存在感を示す必要があったり、外に出かけて遊んだり、慰めてもらう必要がある」ということに気付いたそうです。「だから子供を大切にする一方で、自分も娘であることを忘れてはいけない。私たちの母親は昔からとても強かったのですが、年を重ねるにつれて実はとても脆くなっている。お母さんを大切にしましょうね。」と語っています。
これからも母親として、そして女優として、様々な面を見せてくれることでしょう。