台湾の文化振興や芸術発展業務などを担う文化部では、2009年から「文化資産保存法」に基づいて伝統芸能や重要伝統工芸を登録し、ならびにその保存者を認定しています。この「保存者」に認定された人は、「人間国宝」と呼ばれています。
今年(2021年)の5月までに国家重要伝統芸能で19項目28名、重要伝統工芸で20項目27名が登録・認定されています。
そして先週(5/24)、新たに2項目の原住民族重要伝統工芸が登録され、そのそれぞれの保存者2名が「人間国宝」に認定されました。
今回新たに登録された2つの原住民族重要伝統工芸とは、一つが「セデック族Gaya tminun伝統織布」、そしてもう一つが「カバラン族ni tenunan tu benina香蕉絲織布(バナナシルクの織物)」です。
セデック族とカバラン族は共に今回、初めて伝統工芸に登録されました。
まず、「セデック族Gaya tminun伝統織布」とは、セデック族の織物文化を代表するようなもので、この布は、セデック族の女性たちが何千年にも渡って共有してきた文化の結晶です。
セデック族の織物の歴史、技術の蓄積と発展の軌跡、そこには何千年にもわたるセデック族の女性たちの知恵が表されています。
中でも、その最高技術とされるのが「Puniri(經挑技法)」と呼ばれるセデック族特有の技法で、菱形の模様がいくつも浮き出るように織るのが特徴です。
この模様から部族の織物の特徴を知る事ができ、部族の芸術表現を反映しています。
この「Puniri(經挑技法)」は、横糸で模様が作られていて、縦糸は横糸に覆われて見えなくなるため、他の模様織りと区別するために、“横糸織り”という意味の「經挑」と呼ばれているそうです。
その「Puniri」を伝承している女性、張鳳英さんも今回、保存者(人間国宝)として認定されました。
祖母と母からその技術を受け継いだ張鳳英さんは、部族の人々から最も優れた織物職人として認められていて、長年に渡り、その織物の伝承に力を注ぎ、伝統文化の知識と技術をセデック族の集落やその他の地域にも広めてきた人物です。
ちなみに、「Puniri」を織るときは、図案の構造を正確に覚え、忍耐力をもって、織りの道具や順序に集中し、途中で間違えないようにする必要があります。
セデック族の女性たちの間では、最高級の菱形模様を織ることができる女性は“一人前の女性”だと言われ、織物ができないと“一人前の女性”として見られなかったんだそうです。
そして、今回、重要伝統工芸に登録・認定されたもう一つの「カバラン族ni tenunan tu benina香蕉絲織布(バナナシルクの織物)」もカバラン族の代表的な工芸で、バナナの繊維を使って織るものです。
バナナシルクの織物は主に平織りの技法で織られていて、模様や図案はなく、他の植物による染色もほとんどありません。そのため、食用のバナナの質感の美しさと自然な色を表現した作品です。
カバラン族のバナナシルクの織物は、部族の振興運動の重要な文化的特徴であり、コミュニティと部族のアイデンティティを統合するために重要で代表するものでもあります。
その織物を伝承する嚴玉英さんも、今回、保存者(人間国宝)として認定されました。
嚴玉英さんは、バナナシルクの織物復興のプロセスに参加、道具や技術の名称を熟知していて、カバンラン語で紹介することができます。
カバラン族はバナナの木を切り倒し、バナナの繊維を取る際、儀式を行い、作業が順調に行くよう先祖に祈ります。また、バナナの繊維を処理している時も、「バナナシルクの織物の歌」を歌います。その歌の内容は、織物の作り方の流れや、先祖への祈りが歌われています。
嚴玉英さんは、それらの流れも全て熟知していて、失われかけている伝統的な織物文化の知識を守り続けていて、記憶の中からバナナシルクの織物の知識と技術を現代の生活へと段階的に再現しています。
文化部は、台湾の重要無形文化資産を保存し、伝承していくことは文化部の重要な使命だとし、今回新たに重要伝統工芸保存者を認定した。今後も「文化資産保護法」第92条規定に基づき、実習プログラム、各項目の記録の保存、教育普及活動を開始し、台湾の伝統文化が継続的に継承され、台湾文化の特徴と主体性がさらに強調されるようになると説明しました。
台湾には多くの原住民族の人々がいて、今、その歴史や継承してきた伝統を政府も共に守り、継承していく動きが活発となっています。