先日、台湾のある男性がフェイスブックのグループページにあげた写真が話題となっています。
その写真とは、日本の新幹線とギリギリのところですれ違う様子が車の中から撮影された1枚。そしてコメントには一言「睡到日本了(目覚めたら日本だった)」。
写真に写っているのは白いボディにブルーのラインの明らかに日本の新幹線。でも通っている道は見慣れた台湾の道路…。
この写真を見た台湾の鉄道ファンたちは、「千年に一度の奇跡の写真だ!」、「新幹線0系が台湾の路上を走ってる!」と、すぐさま反応。「新幹線0系だ!子供の頃のあこがれだった」とか、「神がかり的な0系だ」という書き込みもあったほか、中には「自分もさっき見たよ」などファンが続々とコメント。
さらには詳しい人も登場し、「新幹線0系限界測定車だ!」など説明の書き込みもあり、コメント欄は大いに盛り上がっていました。
実は、この新幹線、見間違いでもなく、本物の日本の新幹線。
新幹線0系電車といえば、日本の鉄道技術の集大成とも言うべき存在で、東京・大阪間を時速220キロで走り、沿線都市の経済成長を支えました。それは、戦後復興を目指す日本の経済成長を象徴するもので、かつ、フランスのTGVやドイツのICEなど、各国の高速鉄道の発展に刺激を与えました。
私のように鉄道に詳しくない人でも、新幹線といえばあの可愛らしいコロンとした顔の車両をイメージする程ですし、今でもスマホの絵文字の新幹線の一つは0系のアイコンだったりと、新幹線を代表する車両ですよね。
そんな新幹線0系電車は2008年に完全引退。世界に27台が現存しているそうですが、そのうち2台は海外にあって、1台はイギリスの国立鉄道博物館に、そしてもう1台は台湾にあるんです。
実は2004年、台湾新幹線こと、台湾高速鉄道の建設が進められていたころに1台の新幹線0系電車が台湾に運ばれ、「限界測定車」として活躍していたんです。
この“限界測定”というのは、車両の走行に支障をきたさないように、列車本体と外部構造物などとの安全を保つ許容範囲を調べることで、その限界を見極めるためにこの新幹線0系の車両が活躍していました。
しかも、測定のため、車両にはたくさんの測定棒が出ていたことから、その姿が多くのかんざしを挿した花魁に似ているとして、台湾の鉄道ファンの間では「花魁車」として親しまれていました。
2006年に限界測定車としての任務を終えたのですが、その後も、車両は台湾北部・新竹にある台湾高速鉄道の六家基地に保管されていました。
そして、2012年に正式に日本から台湾へと無償提供。
その際、外装に錆が見られたため、台湾高速鉄道は2013年に修繕を行いましたが、その後も屋外で保管していたことから、日差しや雨に耐えられず、内外の鉄が錆びたり、塗装のひびや剥がれが起こっていました。
そこで、2018年に台湾高速鉄道は、国立科学工芸博物館に調査・整備を依頼し、0系の車両を台湾に来た頃の状態に復元することにしました。
そして昨年(2020年)末に修復工事が完了。
今年(2021年)の第2四半期には台湾高速鉄道「台南」駅前に展示スペースを設け、常設展示される予定なんです。
その男性が路上で見かけた新幹線0系電車は、そのため、台南駅へ移動中だったというわけです。
日本から台湾に渡って活躍したこの0系のおかげで、今の台湾高速鉄道が安全に走ることができているんですね。
引退しても、海を越えても多くの人から愛されている新幹線0系電車。
今は台湾も新型コロナの感染拡大によって、不要な外出を控えるよう呼びかけているためすぐに一般開放とはならないかもしれませんが、台湾の多くの鉄道ファンも楽しみにしていて、また台湾高速鉄道も、今後、台南の新たなランドマークにしていきたいと考えています。
皆さんもコロナが収束してまた再び旅行ができるようになりましたら、台湾で大切に保管されている日本の新幹線0系電車を見に台南まで足を運んでみてくださいね。