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Rti 台湾国際放送Rti 台湾国際放送台湾博物館(2020-06-07)台湾のコロナ対策、法律面から見えてくること――星友康

  • 07 June, 2020
ミュージアム台湾(台湾博物館)
法律家の星友康さんにインタビュー。台湾国際放送で。(写真:rti)
ミュージアム台湾(台湾博物館)
中央流行疫情指揮センター(感染症対策本部)の指揮官を務めた陳時中・衛生福利部長。1月21日から20週にわたって毎日午後2時から記者会見を開催し、コロナ感染と対策の進行状況を説明した。(写真:中央流行疫情指揮センター/CNA)
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台湾のIT担当大臣に当たる唐鳳・行政院政務委員(無任所大臣)。健康保険のシステムを利用したマスクの平等割り当てのシステムを考案したと言われている。(写真:CNA)
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中央流行疫情指揮センター(感染症対策本部)を視察した蔡英文総統(右から2人目)。陳時中・指揮官(右から3人目)も同席。(写真:総統府/CNA)
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いわゆる「コロナ対策特別法」(正式名称「厳重特殊伝染性肺炎防治及紓困振興特別条例」)が2月25日、立法院で可決・成立。1月15日にさかのぼって施行される。2021年6月30日までが期限の時限立法だ。可決の槌を振り下ろすのは、国会議長に当たる游錫堃・立法院長(右)。(写真:CNA)

インタビュー

司法院法官学院講師・星友康

「台湾のコロナ対策、法律面から見えてくること」

 

台湾は、新型コロナウイルス感染対策で優れた効果を上げた。これは、現時点で世界でも衆目の一致するところではなかろうか。感染拡大の早い時期に、中国大陸からの感染の流入をシャットアウトし、さらに早め早めの対策を次々に打ち出して、感染を抑え込んでいった。

しかし、日本で紹介され、論じられている台湾のコロナ対策は、英雄論一色だと言えるだろう。政治のトップの指導力であるとか、対策の指揮を執った衛生大臣の責任感であるとか、若きIT大臣が打ち出したマスク不足対策であるとか、判で押したような似通った内容の賛美がまかり通っている。そして、日本のコロナ対策を批判し、台湾に学べという。

しかし、事はそれほど単純なのだろうか。台湾は法治社会である。すべての政治は、法律に基づいて進められる。台湾のコロナ対策の基礎にあるのも、その法律である。その基礎となる法律にまで踏み込んで考えなければ、台湾のコロナ対策の評価はうわべだけのものとなり、台湾のコロナ対策の本質がいったい何だったのかを理解することはできないだろう。

自分の主張に都合の良い話だけを集めて台湾を褒め上げることでは、決して台湾を理解したことにはならない。台湾ときちんと付き合うには、台湾の全体像を、今回の場合は台湾のコロナ対策の全体像を浮かび上がらせ、それに向き合う必要があるだろう。

実は、台湾の法律家たちの間の論議では、今回のコロナ対策を法律面から見ると、かなりの後遺症が残る可能性があるという。それは、いったいどのような問題なのだろうか。

今回のコロナ対策の基礎となっているのは、台湾のいわゆる「コロナ対策特別法」(正式名称「厳重特殊伝染性肺炎防治及紓困振興特別条例」)である。感染が拡大してから、立法院(議会)で急きょ可決・成立した法律で、期間限定の時限立法だ。

今回、インタビューに登場いただいた司法院法官学院講師の星友康さんは、この法律の第7条に着目する。この条文には、「中央流行疫情指揮センター(感染症対策本部)の指揮官は、感染状況を防止・抑制する必要のため、必要な対応処置または措置を実施することができる」と書かれている。この極めて簡素な条文が、実は指揮官に絶大な権限を与えていると指摘する。つまり、この条文によって、指揮官は何を行っても良いことになるのだ。

このコロナ対策特別法とは、従来からある「伝染病防治法」の内容を、今回の新型コロナウイルス感染に対応するためより具体化したものだ。「伝染病防治法」は2003年の重症急性呼吸器症候群(SARS)の感染の際、台湾で深刻な犠牲が発生したことを受けて強化されている。コロナ対策特別法は、この法律の内容を、より明確に示したものとなっている。罰則も具体的に書かれている。だが、その最大のポイントは、第7条だ。

この第7条で指揮官に与えられた絶大な権限は、「中華民国憲法」の追加修正条文第2条第3項にある「緊急命令」と極めて似ている。「緊急命令」とは、「総統は国家あるいは国民が緊急危難に遭遇するのを防ぎ、 もしくは財政経済上の重大事に対応するため、行政院会議の決議を経て緊急命令を発布することができ、必要な措置のため憲法第43条の制限を受けない。ただし命令発布より十日以内に立法院に送付して追認を受けなければならず、 もし立法院が不同意の場合は、ただちに緊急命令は失効する」というものだ。

総統に、憲法をも停止することができる絶大な権限を与える「緊急命令」だが、発令後に立法院の同意が求められる。しかし、今回の「コロナ対策特別法」はそれを求めておらず、むしろ「緊急命令」よりも権限が大きいと言える。その権限が、指揮官(今回の場合は陳時中・衛生福利部長が指揮官を務めた)に与えられるというのだ。「緊急命令」は日本の要請ベースの「非常事態宣言」と言葉上は似ているが、似て非なるものだ。

蔡英文総統は、野党からコロナ感染に対応するため「緊急命令」を発令するよう求められたのに対して、現行の法令で対処できるため、発令を考えていないと回答している。確かに、コロナ対策特別法があれば、総統が一身に責任を負うことになる「緊急命令」発令の必要はない。「コロナ対策特別法」で十分なのである。

「緊急命令」は、使いようによっては、人権抑圧につながる危険性を持っている。悪名高い台湾の戒厳令は、この「緊急命令」に基づくものだ。「緊急命令」を出してもしうまくいかなかった場合、総統が責任を問われ、悪名を一身に追わなければならなくなる。しかし、「コロナ対策特別法」であれば、責任を問われるのは指揮官ということになる。

そして、この、一人の人間に強い権限を与えるという法制度は、つまり英雄を作り出す基礎になる。強い権限を与えられた人間は、英雄にならなければならないし、英雄になることが求められる。これは、政治のリーダー、つまり総統を国民の直接投票で選ぶ台湾が持つ政治的な雰囲気だ。政治のリーダーを国会議員の互選で選ぶ日本にはない風土だ。

こうして、「中央流行疫情指揮センター」の指揮官は、多少強引なところがあっても、法律に基づいて強力な指揮権を発動することができた。しかし、法律の基礎も理念も大きく異なる日本が、はたして台湾のコロナ対策に学べるものなのだろうか。日本に台湾と同様の法律制度を構築することが、可能なのだろうか。英雄論で台湾を褒めるだけでなく、もっと緻密な比較と議論が必要だろう。

確かに、台湾のコロナ対策は効果を上げた。しかし、今回はこうした対応方法が的を射たものだったとしても、それが必然なのか偶然なのか、議論があるところだろう。そのうち、偶然というのは、主に中国大陸の要因だ。中国大陸が感染の発生源だったから、台湾は直ちに中国大陸からの渡航をストップできたが、これが他の国・地域だったらどうなっていたのか。同じ対策がとれたかどうか、誰も確証できない。

台湾社会には、中国大陸に対する嫌悪感、不信感が充満しており、それが今年1月11日に投票が行われた総統選挙でピークに達していた。一方の中国大陸も、総統選挙を前に昨年8月から台湾への個人旅行をストップさせていた。この政治、社会的な雰囲気と現実なしに、対策が効果を上げることができたかどうか、実際のところ分からない。

また、マスクが平等に行き渡るようにしたシステムは、健康保険制度を利用したのだが、これは身分証番号が基礎となっている。この身分証番号というのは、つまり日本では反対論が強い国民皆背番号制であり、国民一人一人がすべて番号で管理されているのだ。これを、マスク購入に利用し、海外渡航歴の確認に利用したわけだが、実はここに法的な問題がないわけではない。もし、何らかの訴訟が起きた場合、どのような判決が下されるかは分からない。これは、SARS感染の際に、実際に起きたことだ。

感染対策での好成果。確かに、結果良ければ、すべて良し。台湾でも、今回の対策を表立って批判する人はいない。しかし、その背景にある台湾特有の事情とは何なのか。台湾の法制度は、日本にないものだ。その前提なしに結果だけを褒め上げても、日本の参考にはならない。両者を単純に比較することはできない。

こうしたお話を、法律家の星友康さんにうかがっていく。星友康さんは、現在、台湾の司法院法官学院で講師を務めている。つまり、裁判官や検察官の先生だ。教えているのは、台湾と日本の法律、そしてそれを支える社会・文化環境の相違だ。台湾と日本の法律に詳しい星友康さんに、今回の台湾のコロナ対策を法律面から見たら、何が見えてくるのかお聞きした。それは、台湾のコロナ対策の本質、そして台湾社会の本質に迫るものだ。

 

【星 友康(ほし ともやす)】

1971年生まれ

1993年9月から台湾在住

■学歴

物理学学士

台湾大学法学学士

台湾大学法学修士

台湾大学法学博士在学

■現職

司法院法官学院講師

考試院考選部 出題・審題委員

私立淡江大学日本語学部講師

私立東呉大学法学部 講師

三達智慧財産権事務所 顧問

立法院 委員助理

■専門

知的財産権(特許法、著作権法)

 

(インタビュー:早田健文)

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