<第1セクション【台南の塩田、北門の井仔脚にて】>
- リスナーの皆様、改めまして「新年快樂!」「恭喜發財!」、旧正月明けましておめでとうございます。今日は旧正月の七日(初七)。伝統的な家庭では、長寿を祈願して「豬腳麵線(豚足ソーメン)」を食べるところもある。その昔は、日本と同じように「七草粥」を食べていたこともあった。そして、一昨日の「初五」、昨日の「初六」は、「開工大吉」と呼ばれる新年の初売りを始めたお店も多く、街中で爆竹が鳴り響いていた。
- 旧正月前に、台南で民宿を営む友人の蔡宗昇さんの案内で、台南の郊外、北門の井仔脚塩田を訪れた話から始めたい。塩田としては同じ台南で、台湾塩博物館のある七股が規模も大きく有名だが、今回はご縁があってこちらの井仔脚の方にお邪魔した。砂州の新北港汕を望む北門潟湖は、夕日の景色で有名な観光スポットであると同時に、その穏やかな内海は養殖の牡蠣の産地、そして台南人のソウルフードの一つでもあり、「虱目魚(サバヒー)」と呼ばれ、東南アジアでもよく食べられているミルクフィッシュの養殖も盛ん。
- この地で民宿レストラン「塩郷」を営む洪有志さんにお話を伺った。ここ井仔脚で塩業が始まったのは西暦の1818年、今から205年も前のこと。元々高雄に住んでいたご先祖さんが、まず台南の佳里の蚵仔頭に移り住み、その後洪水の被害が度々あったため、現在の北門の井仔脚に更に移って定住したとのこと。若い時には故郷を出て都会暮らしをしていた洪さんがこの地に戻って来たのは、約20年前。夕陽、塩田、生態系の三つに代表される、この土地の美しさを再発見したからとのこと。ここは「黑腹燕鷗(クロハラアジサシ)」など渡り鳥も含め、126種の野鳥が観察できる。この日も空に雁の群れがV字型に飛行しているのを私も実際に目撃した。
- ちょうどお昼の時間となったので、洪さんのレストランで食事を摂った。名産品のお二人様セットというのがメニューにあったので、迷わずにそれを注文。出てきた料理は、「煎虱目魚(焼きサバヒー)」「乾拌蚵仔麵線(牡蠣入り混ぜソーメン)」、「西瓜綿虱目魚湯(青スイカと魚のスープ)」、「蒜炒高麗菜(キャベツのニンニク炒め)」、そして洪さんからのサービスで、地元の漁師さんから貰って料理したという「紅燒魟魚(エイの煮付け)」。どれもこれも素材が新鮮で、味付けも絶妙で、本当に美味しかった。特に皮がパリッとキツネ色に焼かれたサバヒーは、下処理が抜群で、サバヒーの独特の泥臭さも無く、また川魚のように入り組んだ骨も綺麗に抜かれていて、間違いなく今まで食べたサバヒーの中でナンバー1。
- 蕭煌奇(Ricky Hsiao)さんの台湾語の歌で『阿爸的虱目魚』OA。
<第2セクション【食材の宝庫、台南】>
- もう一つリスナーの皆さんにご紹介しておきたい食材がある。それはスイカを栽培する際に、剪定されてしまった、熟す前の若くて小さなスイカを塩漬けにした「西瓜綿」と呼ばれる食材。今回はサバヒーと一緒に煮て針生姜を散らしたスープでいただいたが、シャキシャキとした食感、塩気の中にほのかに感じる甘みが何とも言えないほど、滋味にあふれる美味しさ。地元では魚以外にも、豚のスペアリブと一緒に煮てスープにするのも一般的な由。
- この日は、麻豆の総爺という地区にあり、日本統治時代の麻豆製糖工場跡を整備した総爺文化センターにも立ち寄った。ここは2014年と一昨年の2020年に、私のバンド八得力でも芸術祭に呼ばれて演奏したことのある懐かしい場所。ここでは「2022 MATTAUW大地藝術季」を参観。MATTAUWとは、平地の先住民族シラヤ族の言葉で「麻豆」のこと。会期は今年の1月29日まで。
- 麻豆は文旦の産地としても名高い。台南の郊外の地域は、麻豆の文旦の他にも、玉井のマンゴー、関廟のパイナップル、牧場のある柳営の乳製品、海岸線の地区では養殖のサバヒーや牡蠣などの産地が目白押し。台南は食の都とも言われるが、こうした新鮮で美味しい食材に加え、製塩業や製糖業が盛んで、基本の調味料も揃い易かったことも関係位しているのでは?
- ただし、私も大好物の「土鮀魚羹麵(沖サワラのとろみスープ麺)」や「小卷米粉湯(イカ入りスープビーフン)」の材料となる沖サワラやイカは台湾海峡を挟んだ澎湖島産、「炒鱔魚麵(タウナギ麺)」のタウナギは天然物は数が限られ、養殖も難しいことから、ほとんどが中国やフィリピンなどからの輸入ものの由。漫画家で政治評論家の魚夫さんも、この点を指摘。
- 台南出身の曹雅雯さんの歌で『台南人』をOA。この歌には七股の塩田、玉井のマンゴー、紅茶や豆花などが登場し、子どもの頃の記憶が詰まった、台南へのラブソング。
<第3セクション【台南の朝ごはん】>
- 台南では朝から「牛肉湯(牛肉スープ)」や「虱目魚粥(サバヒーの雑炊)」、「碗粿(米粉蒸し)」など、朝から栄養価のある素材の料理をしっかり食べるが、台北など北部では西洋式のサンドイッチやトースト、蛋餅(タンピン、台湾式玉子入りクレープ)など軽食が主流で、台南出身の歌手で日本でも有名な盧廣仲(クラウド・ルー)さんは、北部の大学に入学した当初はこの食事に慣れなかったと言っていた。
- 井仔脚の塩田を訪れた翌日、お決まりの國華街の市場に向かった。お目当ては市場で仕入れた新鮮な食材で作った「魚湯(魚のスープ)」と「肉燥飯(肉そぼろご飯)」。ところが、この日は月曜日。市場が閉まっていて、そのお店も定休日それでも、次の候補に事欠かないのが台南の強み。結局、いつもの「小巻米粉湯(イカ入りスープビーフン)」をいただいた。
- 今月の歌、雪に覆われた大地の下に息づく命の鼓動を歌ったオリジナル曲『この命のぬくもり』OA。