<第1セクション【多くの台湾人がオリジナル曲と誤解した周華健の「花心」】>
- 「台湾に根を下ろした日本歌謡」シリーズの第2回。私が駐在員として北京で暮らしている時代の1994年から香港の衛星放送の『Channel V』が始まり、「華流ポップス」が大きく取り上げられるようになった。その前年に周華健(エミール・チョウ)さんがリリースした『花心』はアジア圏で400万枚のセールスを記録し、大ヒットソングに。『花心』はまさに彼の代名詞、看板曲中の看板曲となった。この曲は、実は沖縄のシンガーソングライターの喜納昌吉さんが1980年にリリースした『花~すべての人の心に花を~』のカバー曲。この曲は世界60カ国で3000万枚以上を売り上げていて2006年、文化庁により日本の歌百選にも選定されている。「この曲はずっと周華健のオリジナルソングだと思い込んでいた」という台湾の人も。
- 周華健(エミール・チョウ)さんの『花心』をOA。
<第2セクション【複数のカバーバージョンを持つ『真夏の果実』】>
- 『花心』がヒットした3年前、ちょうど1990年に、サザンオールスターズの名曲『真夏の果実』も海を渡った。中華圏では翌年1991年1月に香港の張學友(ジャッキー・チュン)さんが、『每天愛你多一些(毎日君を少しだけ多く愛す)』というタイトルで、まずは広東語でカバーし大ヒット。2年後の1993年には、136万枚のセールスを記録し、中華圏では1990年代のトップセールスとなったジャッキーさんのアルバム『吻別(口づけでお別れ)』の中に同曲の北京語版も収録され、さらに多くのファンを魅了。
- 本日リスナーの皆様にご紹介するのは、このジャッキーさんのバージョンではなく、台湾のシンガーソングライターで音楽プロデューサーの剛澤斌さんのカバーバージョン『妳在他鄉(彼女は彼の故郷に)』だ。ジャッキーさんのバージョンが前向きな愛を表現しているのに対し、剛澤斌さんのバージョンでは、好きだった女性が別の男性の故郷に行ってしまった切なさを淡々と歌い上げている。こちらの歌詞の方がオリジナル曲の世界に近い。
- 剛澤斌さんの『妳在他鄉(彼女は彼の故郷に)』OA。
<第3セクション【台湾ポップスの黄金期1990年代】>
- 1990年代は台湾ポップスの黄金期で、中華圏の流行音楽を台湾が牽引していた。メガヒットという形で時折顔を出しては、その動きを後押ししたのが、日本のポップスだった。そして、この時期の中国語にカバーされた曲は、日本の楽曲が原曲であることを忘れさせるほど、完成度が高いというのが私の見方だ。
- それを傍証する学術研究がある。屋葺素子(やぶきもとこ)さん(大阪大学大学院人間科学研究科)の論文「カバー曲史からみた台湾における日本のポピュラー音楽」(2004年、『ポピュラー音楽研究』)の抄録の中で、日本のメロディに中国語の歌詞が付けられたカバー曲の時代別の特徴がこうまとめられている。
- 「1)戦後から1960年代では、言語の政策などによって台湾語の楽曲が不足している代わりとしてカバー曲が制作された。2)1970年 代から80年代ではとにかく楽曲を大量に必要としたため、「穴埋め」としてのカバー曲が求められた。日本のメロディであることを隠すということも行っていた。3)1990年代以降においては、日本・台湾の歌手の互いのプロモーションに使用されるなど、カバー曲が積極的な意味をもち、再び日本を意識したカバー曲が増加した。」
- 今月の歌『泰安情歌』(八得力樂團)をOA。