皆さんは、台湾南部・台南市にある「烏山頭ダム」をご存じでしょうか。
日本統治時代、干ばつや雨による災害に見舞われることが多く、農作物が育たない“不毛の地”とされていた嘉南平原に10年の歳月をかけて灌漑施設「嘉南大圳」を整備しました。それによって、嘉南平原は“肥沃な土地”へと生まれ変わりました。
その嘉南大圳の重要な水利工事の一つであったのが「烏山頭ダム」です。
1920年に工事が始まり、1930年に完成。着工から100年以上が経ちましたが、今も現役で台湾南部の農業を支えています。
その「烏山頭ダム」建設や「嘉南大圳」整備に尽力したのが、日本人の八田與一・技師。
日本では近年、少しずつその名を知られるようになってきていますが、まだほとんどの人が知らないと思います。
しかし、台湾では、台南の人のみならず、多くの人がその名を知っていて、感謝をし、「烏山頭ダム」にある彼の銅像のもとに多くの人が訪れます。また、毎年、彼の命日である5月8日には「烏山頭ダム」で慰霊祭が行われ、嘉南の農家の人々など多くの人が慰霊に訪れます。
ここ2年は新型コロナの影響で、日本から来ることはできませんでしたが、近年は日本から慰霊に訪れる人も増えてきていました。
そんな“嘉南大圳の父”と称される八田與一・技師と、親戚にあたり、烏山頭ダム建設工事の記録画を残した画家、伊東哲氏を主人公とした児童書「1930・烏山頭」の日本語版「1930・台湾烏山頭」がこの度、刊行されました。
「1930・烏山頭」は、1920年から1930年代の嘉南平原を舞台に、八田與一・技師と、伊東哲氏が大圳(水路)の女神と出会いうファンタジックな物語。
本の中には伊東哲氏が描いた「嘉南大圳工事模様」の絵があり、物語を読み進めていくと、読者は同時に、工事の際に使われた機械や、動物、物産、風景を感じることができます。
また、読む人が理解しやすいように絵の解説も掲載されています。
この本は、台南市が、2020年9月の“全国古跡の日”に発表し、八田與一・技師の故郷、石川県金沢市の一部の学校にも収蔵されていたそうですが、児童たちはイラストに興味を持つものの、中国語がわからず読むことができませんでした。
そこでこの度、日本語版の「1930・台湾烏山頭」が完成。
出版に先駆けて、500冊が、2月9日に八田與一・技師の故郷、石川県金沢市へ寄贈するための“オンライン贈呈式”が行われました。
“オンライン贈呈式”では、市を代表して金沢市の山野之義・市長が“画面越し”で書籍を受け取っていました。
また、奇しくもこの贈呈式の日、2月9日は、伊東哲氏の誕生日でもあったそうです。
贈呈式には伊東哲氏の兄のお孫さんも立ち会いました。
そして、2月20日には、東京・日本橋の誠品生活で日本と台湾をオンラインでつなぎ、発表会が行われ、この本の著者の謝金魚さん、推薦者の栖來光さん、翻訳者の池田リリィ茜藍(チェンラン)さんが登場し、刊行記念ライブトークが行われました。
この本の推薦者である栖來光さんは、「嘉南大圳」はとても大きな文化資産である。それをフィクションにするのは簡単ではないし、それを日本語に訳すのはさらに難しいことだ。台南市の文化交流への取り組みに感謝するとともに、今後の日台間の芸術・文化交流の発展を期待したいと語っています。
この日本語版「1930・台湾烏山頭」は、石川県に寄贈されたほか、東京・日本橋の誠品生活、そして誠品生活のネット書店でも販売しています。
ぜひ手に取ってみてくださいね。